先物の価格形成 / Futures Price Formation

信用取引との差異 / Difference from Margin Tradingで説明したように、先物市場の価格は現物市場/Spot marketの価格とは異なります。ここでは、先物価格がどのように決まるかを説明します。
先物価格は、現物価格/Sport pricesを基準として決定される。これは、先物価格が、満期/Expiration dateを迎えるとスポット価格に収束するためである。
日経225先物などの指数先物は、満期になると、毎月第2金曜日の日経平均株価の構成銘柄の始値をもとに算出される特別気配(Special Quotation: SQ)で現物決済される。つまり、先物価格はスポット価格と密接に結びついているのである。
しかし、これだけでは先物価格を決定することはできません。先物の価格決定メカニズムをより深く知るためには、計算によって得られる理論上の価格であって、実際の価格ではない「先物理論価格/Theoretical futures price」を理解することが重要である。先物理論価格の算出に影響を与える主な要因は、短期金利/Short-term interest ratesと配当金/Dividendsです。次の例で見てみましょう。

例 個別株での先物理論価格

  1. AさんとBさんはZ社の株を1,000株買いたいと思っていて、Z社は現物市場と先物市場の両方で取引されている。AさんもBさんも今日購入する資金はないが、3ヶ月後には資金を確保できる見込みである。Z社の株の現物価格と先物価格は次のとおりである。
    現物: 2,000円
    先物:3ヶ月後2,020円。
    ここで、各人が次のように購入すると仮定する。
    Aさんは6%の金利でお金を借りて今日、現金で株を購入する。一方、Bさんは、今日Z社株の先物を買い、3ヶ月後に現物株を買うように手配する。
  2. 1ヶ月後に Z社は3円の配当を支払う。Aさんは3円×1,000株=3,000円の配当を受け取る。Bさんは無配当で0(Z社の株をまだ持っていないため)。
  3. 3ヵ月後、先物取引の満期が到来し、両者とも期待通りの資金を手にする。
    Aさんは借入金と利息の合計203万円を返済。
    2,000円×1,000株×(1+0.06×3/12)=2,030,000円
    BさんはZ社の株を1,000株、予め決まってした先物取引価 格2,020,000円で購入した。
    2,020円×1,000株=2,020,000円。

さて、この結果はどうでしょうか。Z社株式の購入方法を除けば、AさんもBさんも同じ条件でスタートしたことになります。しかし、まったく同じ株式を購入するために、Aさんは受け取った配当金3,000円を除く2,030,000円を使い、Bさんは2,020,000円のみを使いました。Bさんは上記1で現物価格より高い価格で先物を購入した一方、Aさんだけが上記2で配当金を受け取れました。つまり、上記の場合、借金をして株式を購入するのではなく、先物を購入した方がお得だったのです。
仮に、AさんとBさん共にZ社の株を買う資金を十分持っていて、Aさんはすぐに買い、Bさんは先物を買い、契約期間満了まで6%の金利(使わなかった分)を得たとすると、二人の相対的な損益は上記のようになります。
つまり、次の式で与えられる金額だけ先物価格が現物価格を上回り、バランスが取れることが期待できる。
(Funds for acquiring the actuals × Short-term interest rate × Number of days to futures expiration)
– Income that would be earned if the actuals were to be acquired now
(現物価格 × 短期金利 × 期日までの期間) – 今現物を取得した場合に得られる収入
なお、上記計算式の2番目の「今現物を取得した場合に得られる収入」とは、株式の場合は配当/Dividends、債券の場合は期間利息/Interest over the periodを指し、商品(貴金属や農産物など)は当然、配当や利息がないので当てはまりません。

先物は一定の期限で現物と同額になるものですが、期限が到来していない上記の例1のでは、時点ではZ社株式の現物価格2,000円と先物価格2,020円とでちょうど"釣り合っている"、つまりどちらを買っても損得がないと考えられるます。その特殊な価格を先物理論価格/Theoretical futures priceと呼びます。上記の例1で現物ではなく先物を購入したBさんの立場にたつと先物価格は2,020円なので、先物理論価格は現物価格より20円高い。20円は3か月後に現物を所有するためのコストになり"ベーシス/Basis"や先物を購入するためのキャリーコスト/Cost of carryと呼ばれます。
まとめると、先物理論価格は次の式で表されます。
Theoretical futures price = Spot price + Cost of carry
先物理論価格 = 現物価格 + キャリーコスト
キャリーコストの内訳の詳細は、キャリーコスト = 支払う金利の額 – 受け取る配当金

次に、借金をしたAさんの立場にたつと資金を借りて現物を購入する際に発生する支払う金利の額/短期金利と、その借りた資金を投入して現物を買ったので、今後の受け取る配当金/配当利回りの両者のいずれか高低差の差分が先物理論価格と現物の価価格差となり、先物価格が決定されるとも言える。
借金をして現物を購入したAさんは期限日までの間、受け取る配当金が支払う金利の額より低い場合、差分の金利を支払うはめになり、平等を期するためにその分だけBさんの先物価格に上乗せされるべきですね。つまり、キャリーコストは正の数になり先物理論価格はプラスに振れ、先物価格はスポット価格より高くなる(あるいは先物がプレミアム/Premiumで売られている)。
一方、受け取る配当金が支払う金利の額よりも高ければ、借金をしたAさんは期限日までの間、本来、現物であれば配当金(インカムゲイン)を受け取れるのですが、先物は受け取れませんので、その分だけ先物価格に差し引かれるるべきですね。キャリーコストは負の数になり先物理論価格は割安になり、先物価格は現物価格より低くなる(あるいはディスカウント/Discountで売られている)。
Theoretical futures price = Spot price × {1 + (Short-term interest rate – Dividend yield) × No. of days to maturity/365}
先物理論価格 = 現物価格 × {1 + (短期金利−配当利回り) × 期限日までの日数/365}

現実は、取引コストや市場参加者の需給関係など、複雑な関係で価格が決定されるので、これらの問題をαと定義すると、先物価格の総和は次のようになる。
Futures price = Spot price + Cost of carry + α
先物価格 = 現物価格 + キャリーコスト + α

次に日経平均株価での先物理論価格で例示して見てみましょう。

例 日経平均株価の先つぎ物理論価格

日経平均株価が2万円、短期金利が10%、配当利回りが4%の場合、日経225先物の理論価格はいくらか?なお、日経平均先物の約定日までの日数は73日であるとする。
(答え)
理論価格=スポット価格×{1+(短期金利-配当利回り)×(満期日数÷365)}
=20,000円 × {1+(0.1 – 0.04)×(73 / 365)}
=20,240

つまり

債券先物市場と国債現物市場は、それぞれ独立した市場要因によって形成されるのが通例である。しかし、それぞれの価格形成は、受渡決済を通じて密接に関連している。受渡し可能な債券はすべて先物で受渡し可能であるため、先物価格を、将来、実際の債券を売ることができる価格と考えることもできる(ただし、受渡し決済では債券銘柄の選択権は売り手にあり、買い手にないため、先物価格を債券を買うことができる価格と考えることはできない)。このように、債券先物取引における受渡し決済価格は、将来、受渡し可能な債券を販売できる価格を暗黙のうちに意味しているのである。債券の売り手は、将来の取引で実際に受け取ることができるある債券銘柄が最も安価であると予想される場合、あらかじめその債券銘柄のショートポジション(ここでショートポジションとは、まだ保有していない証券を売ること、すなわち空売り)を作り、先物を購入することができます。こうすることで、売り手は、実際に債券の発行を受け、その発行が最も安価な債券であれば、利益を得ることができるようになる。これは一種の裁定取引であり、それが存在する以上、先物価格は最もコストの低い債券の理論先物価格に近似するように収斂していかなければならないだろう。(理論的な先物価格は、原債券の将来の価格でもあるフォワード価格を換算係数で割ったものになる)。
実際のところ、債券先物市場は現物市場よりも流動性が高い。そのため、現物市場の価格が先物市場の価格に追随する場合が多い。しかし、いずれにせよ、債券先物と最も安価な債券の価格関係を理解することが、先物と現物の価格関係を理解する上で最も重要なポイントであろう。

この説明は、金融デリバティブの価格とスポット価格の理論的な関係に関わるものであり、商品関連市場デリバティブ取引では必ずしも当てはまらない。金融デリバティブ取引では、金利や配当などを考慮した理論上の先物価格がスポット価格から引き出されるが、商品関連市場デリバティブ取引では、基本的に商品を保有することによるキャッシュフローが発生しない。金利のほか、商品を保管するために発生する倉庫代や、商品を他人に貸すことで得られるリース料、さらには将来の需給環境の違いなども、先物価格とスポット価格の差を説明する要因になりえます。
一般に便益利回り(商品を保有することで得られる利益。便益利回りの例として、商品を保有していればすぐに生産を開始できるが、先物ポジションだけではそれが不可能であり、状況の変化に対応するためには保有した方が有利であること)と呼ばれる将来の需給環境の違いを理論的に数値化して特定することは困難である。このことから、商品先物価格とスポット価格の関係は、次の式で表すことができる。
原商品がリース可能でない場合。商品先物価格=商品現物価格+金利+保管料-利回り 原料となる商品をリースできる場合。商品先物価格=商品現物価格+金利-リース料-利回り (注)貴金属等の劣化しないリース可能な商品については、保管料を支払うことなくリース料を得ることが可能です。