22%高騰の金価格が映す、トランプ政権下の市場不安と投資家心理
トランプ政権「2.0」の最初の100日間は、投資市場においてまさにジェットコースターのような展開となりました。ボラティリティの主因は、政策の不確実性です。投資家は、関税政策の着地点がどこにあるのかだけでなく、これまでに市場が被ったダメージの規模についても慎重に見極める必要があります。1月20日の大統領就任以降、米ドルはG10通貨の中で最もパフォーマンスが悪く、ポンド建てで7%以上も下落しました。緩やかなドル安は新政権の政策目標だった可能性もありますが、こうした急激な調整の深さは、「米国の例外主義(US exceptionalism)」の終焉を示唆するものとして、市場に疑念を生じさせています。
さらに、100日間で金価格が22%も上昇したことが、投資家心理の不透明感を一層強めました。米国株式市場も軟調で、S&P500は主要株価指数の中で最も劣後する結果となっています。また、株式と債券、金利とドル相場との間における従来の相関関係も崩れつつあり、市場構造に大きなゆがみが生じている兆候が見られます。
では、次に何が起きるのか。その答えは、投資家が現在想定しているマクロ環境と、実際の経済・企業動向がどのように乖離していくかに大きく左右されます。市場では、成長率や企業利益が一時的に軟化し、その後再び加速するという「正常化シナリオ」への期待が根強く残っています。しかし、昨今の市場の挙動はこれまでの常識から大きく逸脱しており、政策リスクも依然として非常に高い状態が続いています。したがって、今後の政権運営の不透明さや、マーケットの急激な変動に備えるためにも、投資を継続しつつ、ポートフォリオの構造を再点検することが引き続き重要です。
そのためには、国別・地域別・ファクター別により細かい資産配分を行い、株式との相関性が低い資産や戦略をポートフォリオに組み入れることが不可欠です。分散と相関回避は、こうした「レジーム不確実性」の時代において資産を守るうえで、今なお有効な手段であることに変わりありません。
また、4月には原油価格が2021年初頭以来初めて1バレル=60米ドルを下回る水準まで下落しました。貿易摩擦の長期化や、世界的な需要鈍化への懸念に加え、米国経済指標もやや軟調だったことが背景にあります。ただし、今回の原油安の決定的な要因は、OPEC(石油輸出国機構)の政策変更にあります。OPECは4月上旬に、5月の原油生産量を大幅に増加させる方針を発表し、市場に驚きを与えました。さらに、来週月曜日に予定されている会合では、6月の生産目標がさらに引き上げられるのではないかとの観測も広がっています。イラク、カザフスタン、UAE(アラブ首長国連邦)などの加盟国が、生産割当量を大幅に上回るペースで原油を供給しているためです。
こうした「規律なき増産」による原油価格のさらなる下落は、加盟国にとって短期的には痛みを伴う可能性がありますが、将来的には生産統制への圧力を強める効果も期待されています。とはいえ、これは非常にリスクの高い戦略です。結果として、今後は過去数年間に比べて大幅に低い原油価格水準が常態化する可能性が出てきました。
一方で、2025年のインフレ見通しが上方修正されるなか、このような供給ショックは、欧米諸国やインド・中国といった主要新興国経済にとって追い風となる可能性があります。特に、インフレ期待と原油価格は強く連動しているため、FRB(米連邦準備制度理事会)にとっても、利下げのための「政策余地」が広がる要因となるでしょう。